「ミツバチと自然環境」を開催しました
投稿日:2024年07月09日(火)
たまきさんサロンスタッフです。
6月14日(金)に、農学博士の藤原 由美子(ふじわら ゆみこ)氏を講師にお迎えして、「ミツバチと自然環境」と題したサロン講座を開催しました。
藤原先生は、一般社団法人「日本在来種みつばちの会」事務局長や岩手県環境アドバイザーも務めていらっしゃいます。
どちらかというと嫌われることが多い昆虫ですが、実は自然生態系の中では大切な働きを担っています。今回の講座では、そんな昆虫の中でも人間との関わりが深いミツバチの生態と、彼らを取り巻く自然環境の悪化や気候変動の影響について、今後私たちにできることも含めて教えていただきました。
現在日本には、在来種である「ニホンミツバチ」と明治時代にアメリカから導入された外来種の「セイヨウミツバチ」の2種類が生息しています。
ニホンミツバチの本来の住処は樹木の洞(うろ)ですが、人家や墓などにも好んで巣を作ります。
セイヨウミツバチの養蜂では、統一規格の巣箱が使われ、巣箱(1段)には、およそ2万匹が超過密状態で暮らしています。巣の中の温度は、35℃にもなるそうです。
【ミツバチはどんな生きもの?】
ミツバチは花がないと生きていけません。餌も巣もすべて花からの蜜や花粉に頼っています。一方、花の方もミツバチや昆虫が来て受粉してくれるのを待っている共生関係です。
ミツバチの生態は複雑で興味深いことが数多くあります。
巣箱の中は蜜蝋でハニカム構造が形成され、1匹の女王バチと多くの働きバチ(メス)、繁殖期に出現するオスバチで構成される集団で暮らす社会性昆虫です。
1匹の働きバチは日齢によって、掃除、育児や女王バチの世話、巣作り、門番、蜜や花粉の収集と、役割が移り変わっていきます。
セイヨウミツバチの働きバチは、巣から半径2〜3km(ニホンミツバチは1〜2q)の範囲を飛び回り、蜜や花粉を集めて来ます。良い蜜源植物を見つけたハチは、巣の仲間にその場所を伝えます。これが「8の字ダンス」と呼ばれる花までの距離と方角を示す動きです。これを解明したカール・フォン・フリッシュはノーベル医学生理学賞を受賞しています。
よく引き合いに出される数字ですが、ミツバチ1匹が一生の間に花から集められるハチミツの量がスプーン1杯と言われています。これが1つの巣箱全体となると、諸条件にもよりますが、セイヨウミツバチの場合、春から秋の間で平均約50kgにもなるのです。
花粉から作られるローヤルゼリーだけで育てられたハチが、女王バチとなり、3年ほど生きますが、生涯ひたすら卵を産み続けます(養蜂用の女王バチは1年で更新されることが多い)。
新しい女王バチが生まれてくる少し前に、旧女王バチは、働きバチと共に分封(ぶんぽう)と呼ばれる巣わかれを行い、別の場所に巣を作ります。本来、ミツバチはこうやって増えていくのですが、養蜂の技術によってコントロールされています。
オスバチは繁殖期になると生まれ、その役割は空中で女王バチと交尾すること。交尾と同時に即死し落下します。
ニホンミツバチに特有の生態もあります。巣に偵察に来る天敵オオスズメバチの斥候役を集団でボール状に囲み、胸の筋肉を震わせて48℃位まで発熱し、死に至らしめるという防御行動をとることが知られています。これはセイヨウミツバチには出来ない戦い方ということです。
ミツバチの生産物はとても多様です。私たちは、古から蜂蜜や蜜蝋、蜂の子、花粉粒、ローヤルゼリーなど、ミツバチの豊かな生産物の恩恵を受けて来ました。
それだけではなく、作物の受粉(ポリネーション)についても、ミツバチが大活躍しています。世界の主要作物の70%は、昆虫や鳥による花粉媒介に依存しているとも言われていて、ミツバチは人間の暮らしと密接に関係した昆虫なのです。さらに、自然生態系の中で多種の植物を受粉する貢献度は計り知れません。
【スズメバチの役割】
ミツバチの天敵であり、「危険生物」のレッテルを張られて恐れ嫌われているスズメバチですが、自然界の中でちゃんと役割を担っているということを、今回は学びました。
・花粉媒介
スズメバチの成虫は肉食のイメージが強いですが、実は幼虫が出す分泌液やある種の花の蜜、樹液などを食料としています。したがって、他のハチ同様に一定の花の花粉媒介をしています。
・種子の拡散
植物の遠方への種子拡散の戦略は、ほ乳類や鳥、アリを利用するのが主流と考えられてきましたが、近年、ある種の植物が持つエライオソーム(獲物の様な組成)に引き寄せられたスズメバチが、種子拡散の役割を担っていることがわかってきました。
・ワインの酵母を提供
ワイン造りに欠かせない酵母は、冬の間スズメバチやアシナガバチの腸内で越冬し、ハチがブドウをかじることで発酵が始まることがわかってきました。
・害虫駆除の役割
スズメバチの幼虫は肉食なので、成虫は農作物や植物につく虫を捕獲し、かみ砕いて幼虫に食べさせています。結果的に害虫駆除や生態系のバランスをとる働きをしてくれることになります。
【ミツバチを取り巻く環境の変化】
ミツバチを取り巻く環境が悪化して来ているというお話では、以下のような問題点が取り上げられました。
・農薬(ネオニコチノイド系)による大量死
・気候変動による悪影響
・ヘギイタダニ、アカリンダニやウイルス、病気による大量死
・蜜源、花粉源植物の減少
・人の生活や意識の変化
生物多様性が急速に失われている現在は、第6の大量絶滅期と言われ、経済優先の人間の行動が要因であると考えられます。
(一社)日本在来種みつばちの会では、駆除対象のニホンミツバチの保護活動や、ミツバチをはじめ多くの生き物の住処となる場所作り(植樹による森づくり、ビオトープづくり)を各地の会員の方々が中心になって行っています。
個人でできることの一つは、庭にいろいろな樹や草花を植えていただくことです(農薬や除草剤は使用せずに)。
また、最近は都市化が進んで身近な自然体験が希薄になって来たことで、人々の昆虫嫌いが増加傾向にあるとも言われています。このことで、昆虫への理解や昆虫が支えている生態系という視点が、私たちから欠けていくことが危惧されます。
子供たちが自然の中で生き物と触れあったりワクワクするような体験をすることが、自然を守りたいという気持ちにつながっていくと思います。
現在、気候変動の影響による自然生態系の悪化と、生物多様性の急激な喪失という問題が、地球規模でクローズアップされて来て、これらの問題を同時に解決していく対策が必要と考えられています。
環境省が掲げる取り組みの一つとして、「30 by 30(サーティ・バイ・サーティ)」があります。これは簡単に言うと、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、陸と海の国土の30%以上を健全な生態系を有した自然環境エリアとして保全していこうという取り組みです。これには、国立公園にとどまらず、里地里山、企業林、寺社林なども含めた地域、企業、団体、個人による保全が必要ということです。
多様性に富んだ植物環境の保全は、地球温暖化の原因の一つでもある二酸化炭素の吸収固定のためにもなり、ミツバチなどの昆虫や生き物たちの棲息環境の保全にもつながっていくはずです。
私たち人間が生きていくためには、植物や昆虫をはじめ多くの生き物の助けが必要です。彼らが棲息し活動出来る自然環境を整備し守る必要があるということを、今回の講座ではミツバチの生態を通して改めて考えさせられました。
講師の藤原先生、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。
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