「津波でよみがえった絶滅危惧植物ミズアオイ」を開催しました
投稿日:2024年07月07日(日)
たまきさんさサロンスタッフです。
6月13日(木)に、岩手県立大学名誉教授の平塚 明(ひらつか あきら)氏を講師にお迎えして、「津波でよみがえった絶滅危惧植物ミズアオイ」と題したサロン講座を開催しました。
平塚先生は、NPO法人日本ビオトープ協会の顧問も務めていらっしゃいます。
この講座では、2011年3月に起こった東日本大震災による津波の後、浸水区域に突然復活したミズアオイと日本の自然や歴史とのかかわりについて教えていただきました。
古代から現在に至る津波堆積物の中から、埋まっている種子を探してもらうワークショップも講座の中で開催しました。
【絶滅危惧種ミズアオイ】
津波前、ミズアオイという植物を見たことのある人はほとんどいませんでした。
もともと東アジアから日本にかけての休耕田や沼、池などの水域に広く分布していた植物でしたが、現在では絶滅危惧種になっています。
日本では、ミズアオイが古代からイネと一緒に水田で育てられ、食べられていました。『万葉集』にも「なぎ」という古名で記載されています。
そのような日常的な作物が絶滅危惧種になってしまった要因は、江戸時代の米本位制によりイネの増産が進み、同じ田の中でのミズアオイとイネの共存が難しくなったためでした。稲田にとっての「強害草」となってしまったことで、次第に疎んじられ排除されるようになり、その数を減らしていったと考えられています。
さらに、近年の土地開発による生育地の減少に加え、除草剤(SU剤)の普及によって、ミズアオイは田から一掃されてしまい、いつの間にか絶滅危惧種に指定されるまでに減少していたのです。
その一方で、絵画、彫刻、蒔絵、陶磁器などの工芸品、織物、生け花などのモチーフとして、ミズアオイの美しい花は人々に長く愛され続けました。家の中で観賞用に育てられていたということは、夏目漱石『吾輩は猫である』の中にも描かれています。
【ミズアオイの復活】
こうして、日本ではほとんど姿を消してしまったミズアオイでしたが、やがて除草剤が効かない「抵抗性タイプ」が、遺伝子の変異によって出現して来ます。それらが、除草剤に弱い従来の「感受性タイプ」のミズアオイと入れ替わりながら広がっていきました。そして、また新たな除草剤が開発されるという終わりのない戦いが続いています。
復活のもう一つの契機は、津波という自然界の「攪乱(かくらん)」によって突然起こりました。
2011年3月に起こった東日本大震災による津波の後、浸水区域の水辺にミズアオイの群生が忽然と出現したのです。
ミズアオイの種子は意外に長生きで、地下の埋土種子は地上よりも多様性に富んでいます。数十年前に埋まり、土中で眠っていた「感受性タイプ」の種子も、津波を機に発芽しています。
津波は表土を削るだけではなく、防潮堤や農道、畦道の裏側を深くえぐるような「洗掘(せんくつ)」という流れを起こします。これによって、埋まっていた種子が堀り返され、水流によって広く散布されたわけです。
津波後の浸水域に、ミズアオイの群生が忽然と出現したのは、このようなわけだったのです。
改めて自然がもたらす力、そして植物のたくましさを教えられた気がするエピソードでした。
長さ1mmほどのミズアオイの種子
講座後半では、古代から現在に至る津波堆積物の中から、そこに埋まっている植物の種子を探してみようというワークショップが行われました。
今回は、石巻市北上川左岸の水田地帯からボーリングによって抜き取った地
層サンプルをふるいにかけて洗い、その残渣を使用することにしました。
仙台市の津波堆積物は復旧復興の過程でほぼすべて撤去されているため、サンプルに出来ないという事情があります。
津波、高潮、高波、洪水などで堆積した可能性のある、大正時代から奈良時代にまで遡る地層サンプルを使います。
サンプルの残渣の一部を取り、水で薄め、デジタル顕微鏡で拡大してモニターに映して慎重に探っていきます。
根気のいる作業ですが、参加者の皆さん方は夢中で探し続けていました。
サンプル採取の場所柄から、このサンプルからはヨシに火入れしていた痕跡としての炭粒も見つかりました。
ゴミや他の植物種子、石などが入り混じっている中から、わずか1mmのミズアオイの種子を見つけられるかどうかは、運次第という先生のお話でしたが、30分位で運よく見つけることが出来ました。
深さ1.6m〜2.0mの有機質粘土層です。西暦1500年頃に堆積した種子でしょうか。(残念ながら発芽力はありません。)
これがミズアオイの種子! 青い方眼が1mm枠
【いつの日か再び・・・】
今回のミズアオイの復活から、ミズアオイが攪乱に依存している植物であり、津波の度によみがえる可能性を秘めた植物であることがわかりました。
美しい花を咲かせる植物だけに、災害後だけに限らず、毎年見ることが出来るような環境を整備できればよいと感じました。
講師の平塚先生、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。
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